そばにいて



紅色の夕陽差す校庭。
秋風に揺れる木々は長い影を作り、其の上をぱらりぱらりと生徒達が帰宅していく。

人も疎らな放課後の校舎。
教室には数人のグループが2組、机に腰を下ろし何やら談笑している。

教室の端。
グループとは別に黒板横に立つ長身の男子が一人。
うねる様な天然パーマの黒髪が特徴的な其の人物は、この学校の生徒坂本辰馬。
どうやらボードに張り出されたテストの範囲を確認している様子。


「明日は数学と国語かや…難儀じゃの。」


腰に手を当て片足に体重を乗せた姿勢。
ボードを見詰めつつ顎を左指先で触れながら…坂本は低く呟いた。
理数は得意だが国語が大の苦手なのだ。

…まぁ生来物事を重く考えるタイプでは無いので口にしてる程には悩んでいないのだが、二年の二学期ともなるとそろ
そろ進路も気になる所。
普通の生徒よろしく悩んでいるポーズをとってみている…といった感じだろうか。


坂本が一人唸っていると視界の隅で影が動いた。
見れば傍らの戸に人影が…。
夕陽に逆光となっているが其の特徴的な髪の色に坂本は直ぐに其れが誰かを理解する。

と徐に開き、其処には坂本の予測通りの男がニヤニヤしながら立っていた。

見事な銀髪に白衣。
銀魂高校の国語教師坂田銀八、その人だ。


銀八は戸口に寄り掛かり銜え煙草のまま言葉を掛ける。

「へぇ〜、明日のテスト気になんの?」

どうやら先程の呟きを聞いていた様だ。


「わしももう二年じゃきぃ、ちくと気合いば入れんと。」


あっはっはっとお決まりの笑い声を上げ頭を掻く坂本。
ほほぉ…と感心した様な声を洩らす銀八は坂本の肩へ軽く手を置き。


「良い心がけじゃねぇか。」


言ってニンマリと笑った。
其の儘坂本の耳元に顔をすっと近付け。


「何時もの所で待ってっから。」


教室内の他の生徒に聞こえぬ様に小さく囁く。
顔を離すとポンポンっと軽く坂本の肩を叩き、銀八は何事も無かったの如く教室の前を去って行った。
紫煙とその残り香だけ残して薄闇の廊下の向こうに消えていく。


「何時もの所…なぁ。」


呟くと小さく苦笑いの坂本。


「ほんじゃあそろそろ帰るかや。」


言って大きく伸びをすると自分の机の上に置かれた鞄を手に取る。
教室の端で未だ談笑しているクラスメイトに声を掛け軽く手を挙げて見せると、ゆったりとした足取りで教室を後にし
た。







陽は随分と西の空に傾き、そろそろ薄闇が空を覆い始めた時刻。
坂本は自分愛用の銀色の自転車の横に立ち、門柱に寄り掛かった姿勢で夕暮れ空を見上げていた。

日暮れの風は秋色を帯びていて少々肌寒い。


「あ…鴉も家路についとるっちゅーのに。」


誰に言うとはなく呟くと、坂本は苦笑いを浮かべながら少し身を縮こませた。
と…其の呟きを聞きつけたかの様に、坂本の視界の端にバイクを押しながら来る銀八の姿が…。


「おう、待ったか?」


待ったかも何も、あれから既に小一時間は経っている。
そんな事も感じさせぬ程、悪びれぬ様子で片手を上げた銀八。
バイクを押しつつゆっくりと坂本の側に歩み寄ってきた。


「わりぃわりぃ。帰り際にクソ校長がゴチャゴチャ言いやがってさぁ〜。」


悪いと言っている割には脳天気な調子。
銀八の言葉に軽い溜息と共に苦笑いを浮かべる坂本。
しかし怒る風では無く。


「相変わらず豪気じゃな。」


あっはっはと笑い声を立てると、寄り掛かっていた門柱から背を離し己の自転車に手を掛けた。
タイヤ留めを片足で外し、直ぐ側迄来た銀八と並ぶ形で歩き出す。


「早ぅ始めんと遅うなるぜよ。」


夕空を見上げて告げる坂本の言葉にヨッとバイクに跨る銀八は、片手でキーを廻しエンジンを掛けた。
ニッと笑うと傍らに居る坂本に顎で己の肩を示す。


「じゃあ行くぞ。」


自転車に乗った傍らの坂本は促される様に銀八の肩に手を掛けた。

ブオン

手元のアクセルを回すと小気味よい音を立ててバイクが走り出す。
逸れに帆走する形で銀八の肩に手を置いた坂本の自転車も走り出した。



バイクと自転車は秋風を切りながら夕暮れの道を連れだって走っていった。








銀八のアパートは高校から大体10程度の場所にある。
古い木造のアパート。
同じ道筋を更に10分程行くと、其の先にちょっと高級そうなマンションが建っている。
其処が坂本の住むマンション。

坂本は現在、親の都合で其処に一人暮らしをしていた。


何時の頃からか坂本は学校帰り偶に銀八の部屋に寄る。
切っ掛けは坂本の国語のテストの酷さに見かねて、銀八が家庭教師を願い出たから。

今考えると何でそんな面倒臭い事を始めたのだろう。
当時金に困っていて、ちょっとした小遣い稼ぎのつもりだったのかも知れない。

当時は有料だったよな……。

走りながら銀八はボンヤリとそんな事を思った。
勿論今は有料じゃない。

まぁ…偶に飯代出して貰う事もあるが。
そこら辺はギブアンドテイクって事で。
国語の勉強を見てやったり、簡単だが夕食を共にしたり。


教師と生徒という関係上、個人的な付き合いはあんまり宜しく無い気もし。
余り大っぴらにする事もどうかって事で、何時もああやって声を掛けては帰宅しているのだった。

もっとも…別に何も疚しい事がある訳ではないのだが……。

坂本も銀八の誘いを断る事は無かった。
一人暮らし同士、話し相手や食事の相手が出来るというのは満更でも無く。

わしが一人暮らしなんを心配してくれとるんかのう…有り難い事じゃ。

そんな風に少し嬉しく思っていた。






少し考え事をしていると、不意に銀八のバイクが止まった。
見ればアパートの前。


「ほら、着いたぞ。」


言いながらゴーグルとメットを外す銀八。


「…おう。」


答えた坂本は銀八の肩から手を離すと自転車を降りた。
自転車置き場に置かれた銀八のバイクの横に並べる様に己の自転車を停め鍵を掛ける。
抜いた鍵を制服のズボンのポケットに突っ込み、後を追う様に階段を駆け上がると銀八の部屋へ向かった。
金属製の階段がカンカンカンと音を立てる。

今時にしては古い造りのアパート。
其の外観からして築30年は軽く経っていそうだ。
一応風呂もトイレもあるとはいえ、坂本が一歩踏み出す度にギシギシと階段が軋み。
逸れと共に赤錆をパラパラと階下に撒いている。

朝の苦手な銀八は、其の立地条件と格安の家賃で此の部屋への入居を決めたらしい。

らしいと言えばらしいかの。

銀八の背を見ながら坂本はククッと笑った。



幾つか並んだドアの一番端で立ち止まった銀八。
ポケットからごそごそと鍵を取り出す。

ガチャリ。

鈍い音を立てて鍵が開くと銀八はノブに手を掛けた。
其の儘室内に入っていく銀八を追う様に坂本も部屋へ入る。

後ろ手にドアを閉めると、木製のドアの向こうには小さな玄関。
横に置かれたカラーBOXは下駄箱がわり。
履き潰しかけた様な靴が何足か無造作に突っ込まれている。
箱の端吊されているのは少し骨の曲がった蝙蝠傘。

乱雑に脱がれた銀八の靴の横に自分の運動靴を揃えて脱ぐと坂本は其の儘部屋へと入って行った。
もっとも1Kという狭さ故入れば直ぐに部屋が見えているのだが。

玄関の横には風呂とトイレのドアがあり、更に其の向こうに小さなキッチンがある程度の小さな部屋。
其れが銀八の住まい。



部屋に入ると朝の慌てぶりが想像出来る様な惨状が広がっていた。
炬燵テーブルの上にはカップや口の開いた食パン袋が置かれており、其の周辺には脱ぎ捨てられたジャージが散乱して
いる。

部屋の隅に引かれた布団などは所謂万年床の様相で、掛け布団などは朝抜け出た状態に乱れていた。


「そこら辺、適当に座ってくれ。」


言いながら銀八はネクタイを外しハンガーへ…続いてシャツも引っ掛ける。
履いていたスラックスを脱ぎその辺にポンと放ると、今度は脱ぎ捨てていたジャージを拾い其れに着替えた。
見慣れた光景なのか…其の様子を横目で見ながら差して気にする風でも無く、テーブル脇の開いた空間に腰を下ろす坂
本。
鞄を横手に置き教科書やら筆箱を取り出した。


「さーて、始めるかぁ…。」


着替え終わった銀八がよっこらしょっと坂本の横に腰を下ろす。
面倒臭そうにテーブルに片肘を付くと教科書を覗き込みながら指を差し。


「其の辺りからが試験範囲だからな〜。」


言って坂本を促しポイントを説明し始めた。
もっとも…国語といえば漢字の書取中心な訳で、文章問題以外はさほど難しい訳も無く。
適当に要点を教えつつ時折声を掛ける程度の銀八。

シャーペンを持ちノートに何やら書いてる様をぼんやり見遣りながら、坂本の横で暢気に大きな欠伸をしていた。






どれ位が過ぎただろう。

坂本が顔を上げると外は既に陽が落ち真っ暗になっていた。
室内は途中銀八が付けた電灯がボンヤリと点っている。

手元の時計に視線を落とせば既に8時を回っており。


「おー……んじゃ今日は此処迄な。」


時計を見る坂本の様子に自らも室内の時計に視線を向けると、銀八はそう言って両腕を天に上げ大きく伸びをした。
其れを見、笑いながらテーブルの上の教科書や筆箱を片付ける坂本。


「今日はよう頑張ったき、明日の国語のテストは安泰じゃ。あっはっはっ。」


明るい調子で告げる。
と…腕を下ろす勢いのまま、銀八は笑う坂本の頭を横から思いっきり叩いた。

パーン!!

大きな音が狭い部屋の中に響き渡る。

 
「あーもー…てめぇはそう言って何時もダダ洩れだろうが漢字!」


何が安泰だと言わんばかり呆れ顔の銀八が突っ込みを入れる。
其の様子に…叩かれた後頭部を撫でながら、坂本がちょっと情けない調子で。


「そがに思いっきり叩いたら覚えたもんが飛んで行くがやき…お手柔らかに頼むぜよぉ。」


言いながら上目遣いで苦笑いを向ける。
其の仕草の可愛さに銀八は思わず視線を反射的に逸らした。

いや…他人が見たら此奴を可愛いとか思わないと思うんだが…。

銀八は自らの考えに突っ込みを入れる。
自分がおかしいのは百も承知なのだ。

……何時の頃からだろうか。
坂本の時折の仕草に妙なときめきを覚える様になったのは。
決して女の様に綺麗とかいう訳でも無い。
自分よりもデカイ天パの男に一体何を血迷っているのか。
ましてや教師と生徒という間柄。


馬鹿馬鹿しいと銀八は首を振った。
誤魔化すように話を変える。



「なぁ…飯どうするよ。遅いし此の儘うちで喰ってくか?」


言いながら敢えて坂本の姿を見ぬ様に席を立つと其の儘キッチンへと向かった。


「チャーハン位しか作れねぇけど。」


炊飯器の中のご飯の量を確認した後、銀八は少し屈んで小さめな2ドア冷蔵庫の中身を覗き込む。
一人暮らしには丁度良いサイズ。


「おー…。コンビニ寄るんも面倒やき、今日は此処で食べるちや。」


答えてから後ろに両手の掌をポンと着いた。
勉強も終わりゆったりとくつろぐ様子。
小さく溜息を吐く。

キッチンの方へと向くと、開いた変な模様のガラス戸の間から銀八の姿を見るとは無しに眺めた。
冷蔵庫から取り出した残り野菜やウインナーを切って炒め、手際良くチャーハンを作っている。

なんか良いのう…こういうの。

心の中で思いつつ思わず顔が綻ぶ。

やがて室内に良い匂いがし始めて……坂本は笑顔の儘出来上がるのをずっと眺めていた。






「はーー…ご馳走様でした。」


パンっと両手を合わせ一礼すると満面の笑みの坂本。
目の前には綺麗になった皿とスプーンが重なる。


「お粗末様でした。」


坂本の言葉に満更でも無い様子で銀八が機嫌良く答える。
いやいや…と言いつつ席を立つ坂本。
自分の皿と銀八の皿を手に持ち流しに向かってた。


「ああーーすまねぇなぁ。」


其の背を見送り銀八がいうと坂本は嬉しそうな笑みを向け。


「ご馳走して貰ったき、こん位はしんとバチが当たるぜよ。」


そう答え、スポンジを握る。
手早く皿を洗い水で漱ぐと、水切りの上に皿を並べてから濡れた手をパッパッと払った。


「ほんじゃわし…そろそろいぬわ。」


風呂にも入らにゃいかんし……部屋に戻って来た坂本は腕時計に視線を落とし銀八に告げる。
見れば9時をとうに回っており、後の事を考えると其の方が妥当な時間になっていた。


坂本が足元の鞄を取ろうと前屈みになる。
と、何を思ったから銀八は其れよりも早く鞄を奪い取った。

掴もうとした鞄が不意に其の場に無くなり、思わず坂本はバランスを崩す。
大きな尻餅。

其れを見遣り悪戯そうな笑みを浮かべる銀八。
キョトンとした表情の坂本。

再び銀八の鼓動が跳ね上がる。


帰したくねぇんだ…。


自分でも意外な行動の理由に気付き銀八は小さく溜息を吐いた。
ちらと見遣ると相変わらずキョトンとした表情で此方を見詰める坂本。

多分何時もの悪ふざけだと思っているのだろう。




高鳴る鼓動を気付かれぬ様少しだけ深呼吸をすると銀八はゆっくりと口を開いた。


駿河様requestの3Z坂本生徒versionです><
あわわわスミマセン…マジ駄文ですTT

切ない系大人展開…って事でこんな内容になってしまった訳なのですが。
(理由になってないし…)

こ…こがな駄文で良いのでしょうか…orz
おろおろTT

続きは…続きは大人展開になりますので後日裏に設置致します><
今裏整理してないので即刻整理してから上げさせて戴きたいと思います…orz

はう…。
なんか…銀ちゃん視点で書いた方が楽だったかもとか……色々な想いが交錯中ですTT