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| 瞬く星の其の下で |
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月の無い夜。
チラチラと眩い程に鮮やかに星の瞬く空。
冬の空気は冷たく張り詰めて。
更に星の光を冴えさせる。
吐く息は白い。
息をする度鼻の奥がツンとする程の冷気。
少し紅くなった鼻先を掌で庇いながら辰馬は両膝を抱える様にして空を見上げていた。
此処は他より少し空が近い。
寝泊まりしている廃寺の山門の屋根の上。
お気に入りの場所。
だが…冬場は流石に寒い。
冷たい瓦屋根の上で辰馬は思わず身を竦める。
カタン。
瓦を踏む音。
其方に視線を向けると………白い人影。
着衣だけで無く其の頭髪からも、その人物が誰だか辰馬には解った。
「おお、おんしも来ちゆうか。」
笑みの形に目を細めて至極明るい声で挨拶をする。
瓦を鳴らし近付く相手。
銀時は辰馬の挨拶に片手を挙げ「おお。」とだけ言葉を返した。
其の儘傍らに腰を下ろす。
銀時の吐く息も白い。
寒いのか両の袖口に手を差し込んで、辰馬と同じ様に膝を抱え座った。
視線を空に向けるとポツリ呟く。
「明日も晴れそうだなぁ。」
のんきな口調。
辰馬は空に視線を戻すと、銀時の其の言葉に小さく頷いて。
「ほんに良い天気になりそうじゃあ。」
静かな…穏やかな声で言葉を返した。
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天人との戦。
もう其れは日常で。
日々の繰り返しで。
そして…消耗していくだけの戦いで。
気が付けば、5人10人と仲間がいなくなっていく。
昨日話した友も。
昨日喧嘩した相手も。
知っている者達が死んでいく。
そんな現実。
「戦は嫌いじゃあ。」
辰馬は何時もそう言っていた。
勿論其れは皆同じだろう。
仲間を失っていく現実を誰もが望んでいる筈がない。
だが…辰馬は天人さえも……死にゆく事を望んで居なかった。
「お前は腰抜けだ。戦うのが怖いのだろう。」
そう言って仲間の一人が辰馬を責め立てた。
「そうかも知れん…。」
責める相手に辰馬は淡々と…そう答えた。
少し困った様に眉根を寄せた笑みで。
辰馬の態度に相手は憤慨したまま其の場を離れた。
残ったのは辰馬と…少し離れた場所にいた銀時。
二人の遣り取りを傍らで見ていた銀時が辰馬に問い掛ける。
「じゃあ、テメェ自身…いや仲間が斬られそうになったらどうすんだ?」
意識してなかったのか、声を掛けられた辰馬が銀時の方へと振り返った。
問われた内容か、其の存在か…。
暫しの間丸い目で銀時を見詰めた儘。
沈黙の嫌いな銀時は軽い溜息を一つ吐いた後もう一度問い掛ける。
「で、どうなんだよ。」
再び問われると、辰馬は思案する様に視線を足元へ一度落とす。
が、直ぐに視線を銀時に戻して。
「仲間ばあ助ける。」
真っ直ぐな視線。
ハッキリとした口調で辰馬はそう答えた。
んー…っと唸り声を洩らし銀時が耳を掻きながら斜めに視線を向ける。
視線を辰馬に戻さない儘低い声で。
「それじゃあ答えになってねぇだろ…。」
言いながら小さく溜息。
銀時の態度に思わず吹き出すと、スマンと前置きした後に辰馬が答えた。
「そうじゃな……その時は、天人を斬る…かも知れん。」
はーーっ。
辰馬の答えに眉間に皺を寄せ瞼を閉じ、あからさまに大きな溜息を吐く銀時。
傍らの木に背を預けると腕を組んで瞼を開く。
半眼の儘視線を辰馬に向けると再び言葉を発した。
「それじゃ躊躇してる間に仲間どころかテメェも斬られんだろうが。」
戦場では白夜叉と恐れられる銀時は、躊躇する事が如何に危険か…命取りになるかを重々承知していた。
だからこそ辰馬の答えには苛立ちを隠せなかった。
いや、辰馬も解っている筈なのに。
其れでも中途半端な答えを出す。
其の甘さを、銀時は苦々しく思った。
腕を組んだ儘眉間に皺を刻み、銀時は辰馬を睨め付ける。
其の気迫に押され辰馬は、あっはっはっと声を上げ微苦笑を浮かべた。
笑いながら頭を掻くのは困った時の辰馬の癖。
辰馬の態度に苛々を募らせる銀時は組んだ腕を解き寄り掛かった木から離れる。
勢い良く辰馬に寄ると着物の襟首を掴んで引き寄せた。
突き合わせる程顔を寄せ低い声で凄む。
「テメェの死体なんて見たくねぇって言ってんだよ。」
本気の目。
銀時の表情を見て、辰馬がまた苦笑を浮かべた。
襟首を掴まれ少し息苦しそうに首を竦めながら、其れでも明るい口調の儘言葉を返す。
「大丈夫じゃ、わしゃあ死にゃあせんき。」
キッパリと言い切った辰馬に銀時は目を伏せ、大きく溜息を吐くと掴んだ襟首から手を離した。
離した手で苛々した様に首筋を掻きながら吐き捨てる様に言葉を発する。
「ったく…お気楽過ぎんだよテメェはよ…。」
忌々しそうにそう言うと又傍らの木へドンッと寄り掛かった。
其の傍らで、辰馬は何時もの様に笑顔を向けていた。
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天人は此方の都合なんか知る訳も無く。
また戦が始まる。
押し寄せる敵に銀時は容赦なく刃を奮った。
だが、倒しても倒してもキリが無い程の天人。
必死に斬り結ぶ。
と…視界の端に映った鉢金頭巾に緋色の羽織。
そう、坂本辰馬。
昼間の会話が頭を過ぎる。
無意識のうちに銀時は其方へと斬り進んだ。
血飛沫の向こうに辰馬の姿が見える。
必死に刀を振るい天人達と応戦していた。
そのすぐ側にもう一人、仲間の一人の姿が見えた。
先日、辰馬に喧嘩を吹っ掛けていた奴だ。
…動きが鈍い。
そう銀時が思った瞬間、天人の斧が其奴の方へと一閃した。
ヤバイ。
銀時が敵を斬りながら其方へ向かおうとする。
が…間に数人の天人。
間に合わない。
次ぎに起こる惨状を想い銀時は顔を顰めた。
ギンッ。
鋭い金属音。
視線を戻すと其奴と天人の斧の間に人影。
辰馬が斧を止めていた。
力任せに押し返すと刀が大きく閃き血飛沫が上がる。
続いて寄せる敵へと刃を返し、辰馬は再び其れを薙ぎ倒した。
目の前に居た幾人かを斬り倒し其の場に銀時も乱入する。
激しい戦闘。
手にしていた刀は血糊と刃零れでやがて斬れず。
辰馬も銀時も敵の獲物を奪っては応戦した。
必死だった。
気が付くと辺りに立っている者は二人だけで。
少し離れた場所。
…………見覚えのある着物の柄。
天人の死体の下に刀を握った腕と着物の袖が見えた。
よろりと辰馬が其方へと寄る。
天人の死体の下から覗く……血に濡れた着物。
既に息の無い着物の人物を見詰め、辰馬の膝がガクリと其の場に崩れる。
低い嗚咽。
手にした刀を支えに項垂れて。
銀時は黙った儘其の姿を見詰めて只立ち尽くすしかなかった。
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空を見上げた儘の辰馬。
横に腰を下ろした銀時はチラと視線を向ける。
紅い鼻。
寒さの為か、其れとも……昼間の事を思ってなのか。
銀時の視線を受けた儘、辰馬は静かに星を見上げている。
間近にいる為か見開いた瞳が潤んでいるのが僅かな星灯りにも見てとれて。
銀時は袖に入れていた腕を辰馬の首に掛け、強引に其の身体を引き寄せた。
急な事で辰馬が目を見開いた儘、其の腕の中銀時の顔を見上げる。
姿勢を崩して、堪えていた涙が辰馬の頬を零れ落ちた。
もう片方の腕も背に廻し、銀時は強く辰馬を抱き寄せる。
「テメェは奴の為に天人斬ったんだろ?…其れは、ちゃんと俺も奴も解ってっから。」
胸の辺りに顔を寄せられ、辰馬は銀時の着物の端を握り締めた。
少し不自然な姿勢の儘、銀時に其の身を預けると小さく肩を震わせ嗚咽を洩らす。
らしくない自分の行動に、照れの為か銀時は天を見上げた。
「明日は何時ものテメェに戻りやがれ。今日は特別出血大サービスだからな。」
敢えて素っ気ない口調で。
……だが低く静かに辰馬にそう告げると、ポンポンとあやす様に其の背を叩く。
銀時の問いに小さく頷く辰馬。
其の温もりが寒空に染みいる様に心地良く。
少し早まる鼓動。
自分の鼓動が辰馬に聞かれないかと思いながら…。
銀時は抱き寄せた辰馬の髪に、気付かれぬ様に……そっと唇を寄せた。
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ダッシュで書いたんで、何か酷い出来…。_| ̄|○
ちょっと親密度が増してますかこの二人。(^-^;
この辺りの経緯を書いておきたいなぁとか思って。
戦が嫌いで人は斬りたくないだろう辰馬。
(モデルの坂本龍馬がそうであった様に)
出来れば峰打ちや、致命傷を与えない様にしたかったんじゃないかなぁと。
でも、ああいう混線状態の戦場ではちょっと難しいだろうと思うんですよ。
なので、やっぱり優先順位でスイッチ切り替えないといけないんだろうなぁと。
でも、天人の命を絶っても仲間を助けられない場面もきっと多いんじゃないかと。
そういうジレンマみたいなのを書きたいなぁって思ったんですが…。(^-^;
ちゃんと説明出来たかなぁ…。_| ̄|○
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