取り敢えず船には乗ったが…座席を探すのに手間取ってしまった。
スッチーのお姉ちゃんの説明は要領を得んし。
…ちゅうか、後ろじゃ頭じゃと訳がわからん。
わしゃあ志村じゃないき。
うろうろとするうちに嫌ーな浮遊感。
あ…不味い。
……吐きそう……。
ここで吐いたら不味いじゃろ。
兎に角トイレ探さにゃあ。
口を押さえて必死に辺りを見回す。
見付けたぁ。
何じゃ扉が輝いて見えゆうよ。
重い身体に鞭打ってトイレに駆け込む。
何じゃドアが狭いのう。
なかなか通れん。
限界ギリギリじゃっちゅうに。
焦りながらも強引に入ると、屈み込んで様式便座とお友達になった。
吐くにゃあ吐いたがスッキリせん。
わしとした事があ酔い止めば忘れたんは大失敗じゃ。
しっかし何でこう身体が重いがか。
足元がおぼつかん。
やっぱりもうちいっと酒ば控えんと。
ブツブツ言っちょるうちに客室のドアが見えた。
賑やかな声が聞こえる。
さぁ…席に座って休むがか…。
ドアに手を掛けると思いの外重かった。
勢い付けて力一杯押してみる。
…あー、歩いた分だけまた何かが上下しとる。
「あ〜気持ち悪いの〜。酔い止めば飲んでくるの忘れたきー。アッハッハッハッ。」
言い訳みたいに言いながら笑ってみる。
これで客室で吐いても許して貰えるじゃろうか。
ふと気が付くと通路の床に人一人転がっちょる。
「あり?何?なんぞあったがかー?」
見れば倒れた人ばあ囲む様に通路に誰ぞ3人立っちょるき。
喧嘩かの。
悪い所に出くわしたか…。
状況が飲み込めんまま先にも進めず立ちんぼになってしもうた。
と、急に3人のうちの一人。
チャイナ服の女の子が走り寄って来て……。
「定春ぅ!!」
誰じゃそれ。
わしゃあ定春いう名前じゃなかぞ。
そう思った瞬間顎に強烈な一撃が…。
あふァ!!
辺りが真っ白になっていく。
わしの耳には女の子の怒声が聞こえとった……。
「このヤロー定春ば帰すぜよォォ!!」
だから定春って誰ぇ?!
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
大きな揺れ。
誰かの叫び声。
何じゃ?
…なんかあったがか…?
うっすら意識が戻って来た。
状況が掴めん。
今日はこんな事ばっかじゃ。
天井を見ながらぼんやり考えとると誰かがわしの髪をひっ掴んで来た。
其の儘思いっ切り引っ張られる。
「イタタタタタ!!何じゃー!!」
毟れる。
頭の毛えば毟れる。
いきなり何ちゅう事をしゆうか此奴は。
引っ張られる勢いで妙な体勢の儘わしも其奴と一緒に走り出す。
「誰じゃー?!ワシをどこに連れていくがか?」
わしの頭ばあ掴んで思いっ切り走っちょる相手に聞いてみる。
答えはあんまり期待しちょらんかったが…。
相手が答えて来た。
言うてみるもんじゃな。
「テメー確か船大好きだったよな?操縦くらい出来るだろ!!」
後ろ姿の相手は振り返らんまま、大声で怒鳴りゆう。
予想外の返事。
何じゃ…わしを知っちゅうて、こがあな事をするがか?
「なんじゃ?おんしゃ何でそげなこと知っちょうか?」
ちくっと頭ばあ冷めて来た。
件の相手を見ようと上目遣いで、髪を掴む腕の先を見る。
「あり?どっかで見た…。」
見えた相手の横顔を自分の記憶の中の人間と摺り合わす。
あの髪…あの顔……。
一瞬で記憶が蘇る。
「おおおお!!金時じゃなかか!!おんしゃ、なぜこんな所におるかァ!?」
地上におると思うとった奴が何でこがあな所に。
しかも同じ船じゃと。
こりゃあ目出度いの。
一体どんだけぶりじゃあ。
嬉しさの余り思わず手を叩く。
「久しぶりじゃのー金時!珍しいとこで会うたもんじゃ!こりゃあめでたい!酒じゃー!酒を用意せい!」
ようと考えりゃあ此処は余所の船なんじゃが、つい自分の船のつもりで言葉が出た。
次の瞬間、顔面に激しい衝撃。
また一瞬世界が真っ白になった。
ぼんやりした意識の中で金時の声が遠く聞こえる。
「銀時だろーがよォ銀時!お前、もし俺が金時だったらジャンプ回収騒ぎだぞバカヤロー。」
襟首を掴まれちゅうがか首が苦しい。
ちょっと目が覚めた。
銀時…おんしゃあ相変わらず手厳しいのう………。
アッハッハッハッ。
…泣いていい?
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